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純一

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長い沈黙が続きました。
とその時、キッチンのテーブルの上で佳織の携帯が鳴り出しました。
佳織が慌てて立ち上がります。
私はほっと胸を撫でおろしました。自分の気持ちを伝えたい思いと上手く伝え
られないもどかしさの狭間で、すっかり疲れ切っていたのです。

キッチンから佳織の明るい声が聞こえてきます。
私は床に目を落としたまま、ぼんやりとしていました。
さっき、佳織はそこに居てくれるだとうかと危惧した新しい時間は、いつのま
にか、また、昨日に続くいつもと変わらぬ時間に戻っていました。

「お風呂へ入れば」
話しが終わりキッチンから戻った来た佳織が言いました。
「そうだね」
私はやりきれない思いで、小さくため息をつきました。
その晩の話はそれきりでした。

純一

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佳織がぽつりと言いました。

「そんなこと、出来るわけないでしょう・・・」
「愛してるんだ。佳織を愛してるんだ。だから・・・」

私は切羽詰まった気持で、繰り返しました。

「・・・」
「僕とだったらいいの?」
「それは、だって夫婦だもの」
「なら・・・、行為を人に覗かれても?」
「えっ?」
佳織の肩が弾かれたように、ぴくりと吊り上がりました。
「佳織からは見えない様にするから・・・」
「それ・・・、どういう意味・・・?」

佳織の胸が静かにけれども大きく上下していました。
顔はほんのり紅色で、上気している様に見えます。
もう何も隠し立てするつもりはありません。
自分の気持ちを素直に伝えること、それが佳織への愛を伝えることだからです。

純一

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「佳織が、他の男とセックスしている姿が見たい」
「・・・」

その言葉は、ほんの数秒で消え去って行きました。何も無かったかの様に。
見慣れた家具やテーブル、時計、マグカップ・・・住み慣れた居間のどこかに
吸い込まれて、再びしんとした静寂が戻って来ました。
けれども、自分の思いを言葉にして告げた今、そこはもうさっきまでの居間では
ありません。今の時間は、もうさっきの時間の延長ではありません。昨日までの
暗く長い葛藤からは分断された、新しい時間なのです。

その時間の中に、佳織は居るのでしょうか。佳織の心は昨日と同じ様に、そこに
あるのでしょうか。
佳織はなおもそこに居続けてくれるのでしょうか。
私は高鳴る胸に息を弾ませました。

純一

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さあ、言うんだ。
本当に、本当に佳織を愛しているのなら、正直に自分の気持ちを言うんだ。
言わなければ、自分は人間として救われない。
愛しているからこそ、愛しているからこそ、打ち明けるんだ。
私は懸命に自分を叱咤しました。そして、情けない卑怯者である自分への怒り
をぶちまけるかのように、大声を上げたのです。

「そうじゃないんだ!」

ついに私は言いました。

「・・・そうじゃないんだ、僕が、・・・僕が、佳織が他の男とセックスしてい
る姿を・・・見たいんだ」
「・・・」
「佳織を愛しているから、心底愛しているから・・・だから、見たいんだ」

私の佳織への包み隠さぬ気持ちです。
私はそれを愛と呼んではばからないつもりです。
その時の佳織の何とも言えぬ複雑な表情を、私は一生忘れません。
純一

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私は、愛は繊細なガラス細工のように、いつ壊れるやもしれぬ危ういものであ
ると思っています。明日にもこの愛を失うかもしれないという暗い不安の影は
常に私の後でひっそりと息を潜めているのです。
もしかしたら、私はそんな不安を打ち負かす強固な愛の証が欲しかったのかも
しれません。

私は冴えない男です。
例えば仕事ひとつを取ってみても、何とか今の会社に引っ掛かった様なもので、
今後もそれ以上にはなり得ないでしょう。容姿については言うに及ばず、ずっ
とモテない人生を歩んで来たのです。
けれども、一つだけ自慢出来るものがあります。それは妻、佳織です。
そんな凡庸な人生のたった一つの光が、最愛の妻佳織なのです。私を心から愛
してくれている佳織なのです。
そんな彼女を悪者に仕立て上げるなどという事が、どうして出来るでしょう。


プロフィール

佳織&純一

Author:佳織&純一


夫が胸に秘めていた願望、それは、
自分以外の男性に抱かれる私の姿を
見ることでした。
私は夫の願いを叶える為に、夫の眼の
前で知らない男性に抱かれました。
それは、けして過ちなどではなく、
確かな私たちの愛の行為であったと
今でも信じています。
あれはけして夢ではなかった。
あれはけして過ちではなかった。
それを確かめたくて、このブログで
私たちは羞恥と昂奮に彩られたあの
時を追憶します。

ご訪問ありがとうございます



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